サイバーセキュリティ被害に遭った事業所のセキュリティ強化と、ヘルパーの定着率向上のため、ITによる働き方改革を実施した障害福祉サービス事業所さまの事例です。
◆お客さまの背景と課題
被害額はそれほど大きくなかったものの、事業所の事務担当者さまが、フィッシングメールによる詐欺被害に遭われたので、弊社にご相談に来たのがきっかけです。
まずはセキュリティ対策が急務だったので、そのご支援をさせて頂き、その後、サービス提供責任者様(以下、「サ責」と呼ぶ)から、ヘルパーの方が定着しないので、今後の事業運営が心配だというご相談を受けました。
◆目標(解決の方向性)
事業所のセキュリティ対策の強化を実施し、セキュリティ事故を未然に防ぐ
「職場環境改善・働き方改革」によりヘルパーの定着率を上げる
◆解決施策
1. セキュリティが強化されたメールシステムの導入
お客さまは自社ホームページを開設しているレンタルサーバのメール機能を使用していたが、サイバー攻撃に対する防御機能は高いものではなかった。
そこで、フィッシング詐欺メールやマルウェア、スパムメール等、サイバー攻撃に対する機能が標準装備されたマイクロソフトのOffice365というクラウドサービスをご提案させて頂き、これを導入した。
2. 事業所オフィス環境のセキュリティ強化
事業所のOA機器---パソコンやコピー機、簡易ファイルサーバ、ネットワーク機器など全てのOA機器を点検し、セキュリティパッチの適用有無、ウイルス・マルウェア保護の有無、設定は問題ないかなどの脆弱性確認を行い、脆弱性がある部分について対策を実施。
事務担当者が、パソコンその他機器に対し、特権アカウント---勝手にアプリのインストールやシステム設定変更など、なんでもできるアカウント---を使っていた。このアカウントが乗っ取られると機器を自由に操作できるため、事務担当者のアカウントは特権アカウントを使わせないようにした。
内閣サイバーセキュリティなど官公庁が発行している、判りやすいサイバーセキュリティに関する冊子などを用い、事業所の従業員に対し、セキュリティ教育を実施。
3. 電子化による、サービス実施記録作成の簡素化
事業所は、サービスを利用する障がい者さま(以後「利用者」と呼ぶ)に、居宅介護や同行・行動支援などのサービスを実施した場合、必ずサービス実施記録と呼ばれる書類を作成する必要がある。
これはサービスを提供した証であり、これに基づき報酬を請求するきわめて重要な資料であり、一般にはヘルパーが作成するが、ヘルパーにとっては面倒で負荷の高い事務作業であった。
提供するサービスのほとんどは、利用者の予約時に時間・サービス内容などがほぼ決まる。従って、予約時に決まっている事項(提供時間・サービス内容など)を事前に記載しておくことで、サービス提供後に記入する箇所は少なくなり、ヘルパーの事務作業は軽減される。
これをもう一歩進め、これまで紙による記録作成を電子化した。具体的には、利用者から予約が入った際、事業所の事務担当者はパソコンで時間・サービス内容などを入力→ヘルパーはサービス提供後、タブレットから、事前に登録された対象のサービス実施記録を呼び出し、そこに必要な事項を、選択式の簡易入力、および、タブレットの音声入力などを使い、不足/変更部分を入力したうえで、サービス実施記録を完成するプロセスに変更した(注: 利用者様の署名・捺印は別途、本票を紙で印刷したものに署名・捺印して頂く)。
この電子化は、メールセキュリティを契機に導入したOffice365の簡易アプリケーション機能(PowerApps/Flow)で作成した。
4. 利用者別の「チーム」を作り、利用者さまの情報を共有する仕組み
利用者のケアを担当するヘルパーは、ケアに当たり利用者の情報---障害の程度や持病、何かあった場合に連絡するかかりつけ医、居宅の構造など---を知る必要がある。
また、ヘルパーは、利用者からの様々な依頼/連絡事項や、状態などを、次に担当するヘルパーに引き継ぐことも必要である。
実は、新しく入ったヘルパーは、これら利用者の情報が足りないため、利用者へ十分なケアをすることができず、それが自身の喪失等につながり辞めていく、ということがあった。
そこで「チームとしてヘルパー同士で助け合いながら、利用者を支援する」ことを目的に、利用者単位での情報を集約し、担当ヘルパー間で利用者の情報を「いつでも、どこでも」共有する仕組みを導入することとした。
「いつでも、どこでも」情報にアクセスするためには、電子化とタブレット・スマホ等による情報のアクセスは不可欠である。そこで、Office365に標準装備されているチャット&データ管理ツールである「Teams」アプリを使うこととした。
「Teams」はチーム単位でチームメンバーが情報を共有するツールであり、各利用者を「チーム」と見立て、利用者をケアするヘルパーをチームメンバーとして、メンバー間で利用者情報を共有、また、利用者に関する連絡/伝達事項等をチーム内でチャットやToDoとして管理することで、ヘルパー間の利用者の情報共有を促進した。
5. Q&Aやケア実技動画による新人ヘルパーの教育(簡易e-ラーニング)
新人ヘルパーの自信喪失による離職を防ぐため更に導入したのは、「ケアのQ&A」と「ケア実技の動画配信」であった。
これも、Office365に電子化して集約、ヘルパーがタブレットやスマホでアクセスできるようにして、いつでも・どこでも調べる/学ぶ機会を提供した。
6. 管理者とヘルパーとのコミュニケーション促進
新人ヘルパーが定着しない理由のもう一つに「事業所への帰属意識の希薄さ」がある。ヘルパーは仕事のスタイル上、利用者宅への直行直帰がベースとなっているが、これが「悩み事があっても相談できない」などのヘルパーへのサポート不足につながっていた。
そこで、ヘルパーとサ責など事業所の管理者が直接にコミュニケーションできる仕組みを持つこととした。具体的には「Teams」の1対1でのチャット・テレビ電話等の通話機能を用いてヘルパーがサ責に相談したり、逆に、サ責からヘルパーに声がけするというコミュニケーションを行うことにした。
◆成果
1. 事業所の情報セキュリティの高度化
事業所内はもとより、セキュリティ機能が装備されたOffice365導入により、サイバーセキュリティ対策に加え、利用者情報の漏洩等も防ぐ仕組みを構築しました。
2. 離職率の大幅低下
新人ヘルパーの退職率の低下に伴い、離職率が大幅に改善されました(本施策の実施後の離職者は、家庭都合による1名のみ)。
3. 従業員のITリテラシーの向上
タブレットによる電子化は、ヘルパー含む従業員の、情報セキュリティ観念も含む、ITリテラシーの向上につながりました。
4. 利用者の顧客満足度向上
IT導入とチームによる協力と教育・管理者とのコミュニケーション強化は、ヘルパーの帰属意識向上に加え、サービスのスキル・ノウハウ向上にもつながり、結果として利用者のサービス満足度の向上につながりました。
◆弊社のご支援内容
事業所内情報セキュリティ強化のための諸施策の企画から実施
ヘルパー含む事業所従業員への、情報セキュリティ教育
Office365導入の企画から実施
職場環境改善・働き方改革諸施策の企画から定着までの全面的支援
ヘルパーへのタブレット・Office365アプリの操作教育マニュアル作り
◆成功のカギ
1. サ責さまの改善に対する強い意志
「売上増加」や「経費削減」などの、経営に直結する目的に比べ「職場環境改善・働き方改革」という目的は「今、仕事が回っているのだから、急がなくても・・・」ということで、経理管理者様には優先順位が低い、後回しにされやすい目的になりがちです。
実際、最初は、このお客さまにおいてもそうでした。
これを「後回しにせず、喫緊に対処すべき課題」として経理管理者に訴えたのはサ責さまの熱意とご尽力でした。
この熱意と尽力がなければ、このプロジェクトそのものが発足しなかったのです。
サ責さまは、離職率の問題もさることながら、職場環境改善・働き方改革は結果的に、利用者さまへのサービス改善にもなりえることを信じ、強くアピールされたのです。
本当の意味で福祉の精神を持つ、このサ責さまの強いご意志が、プロジェクトを成功に導いたと言えます。
2. ヘルパー・事務員の皆さまの協力
スマホは個人的に使うことがあっても、これまで仕事でITとは無縁だったヘルパーの皆さまは、突然タブレットを渡され、よく分からないアプリなども使わせられたことに、大きな戸惑いがありました。
これを、何のためであるかを説明して説得したのはサ責さまのおかげですが、その後は、私たちの話や、操作方法などの説明に耳を傾け習得されたのは、ヘルパーさま含む、全従業員のみなさまのご協力のおかげです。
また、いく人かのヘルパーの方は、実質的にリーダーとして、他のヘルパーの方へのサポートなど、進んで協力して頂きました。これもプロジェクトが比較的円滑に進んだ要因です。
3. Office365の有効活用
道具としてのITという観点では、このプロジェクトではOffice365の諸機能を様々な場面で有効活用することができました。
弊社は、この経験で、Office365はセキュリティも考慮しつつ、社内の情報共有、コミュニケーションの円滑化における非常な有効なツールであることに確信を抱きました。
◆現在のお取組み
現在は、電子化されたサービス実施記録からの、シームレスで効率的な請求処理を検討しています。